はじめに物流現場の改善や改革を進める上で、「あるべき姿」を描くことの重要性はしばしば語られます。しかし、現状と「あるべき姿」の間にはギャップが存在し、それをどのように埋めていくのかが課題となります。また、「問題」と「課題」という言葉の違いについても、意外と混同されがちです。課題解決のために今一度見直したい、あるべき姿今回の動画の主要なテーマは、物流における「あるべき姿」と「現状」のギャップをどのように捉え、解決策を講じるか、そしてその過程で生じる「問題」と「課題」の違いをどう理解するか、という点に焦点を当てています。コンサルタントとして、顧客の抱える課題解決や「今よりも良くしたい」という要望に応える中で感じる、温度感のずれや、プロジェクトを進める上での意識の重要性についても議論されています。伊藤:今回は、ロジカイギの小橋さん、長井さんと一緒に、物流の現場でよく話に出てくる「あるべき姿と現状のギャップ」について掘り下げていきたいと思います。小橋さんが、このテーマについて分かりやすい資料を用意してくださったんですよね。小橋:はい、コンサルティングのお仕事をしていると、「あるべき姿」についてお話しすることが多いんです。僕たちコンサルタントは、問題があったり、課題解決をしたい、あるいは今を良くしたいというご相談をいただいてお話をさせていただくわけですが、どうもお客様との温度感が合わなかったり、進めていくうちに徐々に乖離(かいり)していく感覚があるんです。小橋:よく使うのが、左側に「As Is」(現状)、右側に「To Be」(あるべき姿)と書いた図です。この現状とどうなりたいかという間にあるギャップこそが、まさに「やるべきこと」であり、それにどれくらいの時間をかけてやるかというのがプロジェクトになります。この図は比較的よく使うのですが、話をしている中で見ている景色が違うのは、単純に「あるべき姿」が違うのか、それとも「あるべき姿」が具体的に描けていないのか、と思ったんです。小橋:しかし、よく考えてみると、左側、つまり現状に対して「問題」と書いている方のギャップもあるな、と。すでに色々な問題が起きて顕在化していて、「これを何とかしたい」という状況ですね。例えば、「誤出荷がある」とか「物が出ない」といったケースです。この場合、今あるものを対症療法的にやってしまうことが多いんです。それがうまくいくと、喉元過ぎれば熱さを忘れる、というように、また元に戻ってしまう感覚が正直あります。小橋:もちろん、この問題と現状のギャップをどう埋めるかというのは当然重要です。しかし、今の物流は課題が多い中で、やはり「あるべき姿」に対して現状をどう捉え、どのように未来を描いていくかというところが極めて重要だと感じています。これを描ける人がいなければならないし、逆に未来を描かないと、なかなか現場は改善していかないのではないかと。伊藤:それはすごく分かります。言葉の選び方かもしれませんが、「問題」と捉えるか、「課題」と捉えるかで感覚が違う気がしますね。問題と捉えやすいのは、特に現場ではイコール「ミス」に近い言い方になりやすい。今の現状から劣っているから、その状況を戻そう、という感覚で、それに対してミスをしたら叱責される、という感覚が強い。伊藤:でも、「課題」とちゃんと捉えて、「あるべき姿」が明確にあれば、それは前向きな話になりますよね。なぜこの課題が起きて、それをどのように解決するか、という話に進むからです。意外とシンプルなのに、そこが難しいところなのかなと思います。長井:そうですね。僕もこういう図はよく使わせていただくのですが、これに「可視化」という情報を加えることが多いです。日本語って難しいんですが、やっぱり「問題」と「課題」がごちゃごちゃになっている人がいるんです。例えば、物流現場でご相談を受けるときに、「うちの『問題』ってピッキングが良くないと思うんだよね」というような、ごちゃごちゃになったお話があるんです。長井:そういう時に、「それは実は問題じゃないですよ」という話をちょっとするために、まず何を「問題」とするのか、そのためには可視化しましょう、という話をします。例えば、「今、生産性はいくつですか?」と問いかけます。1人あたりが1日に何個出荷できていますか?という時に、例えば「100個」という数字が出てきたとします。これがまず第一段階の可視化です。長井:そうすると、「今(As Is)は100個ですね」となります。そして、「あるべき姿(To Be)は、本当は200個ですよね。1人あたり200個くらいできないとまずいですよね」と。ここまで来て、初めてこの図が完成するんです。そして、「じゃあ今100個しかできていないのに、あと100個やらなきゃいけないのが『問題』ですよ」という形で、具体的な例を出してあげないと、なかなか難しいことがあるんです。長井:その100個の差が「問題」としてあって、その中に「課題」としてピッキングという課題があったり、歩くことだったり、運ぶことだったり、色々な課題、ギャップがいっぱいある。そのギャップを1個1個潰したら、「問題」が解決して「あるべき姿」になりますよ、というところを分かりやすく説明する時に、この図はよく使いますね。小橋:なるほど、可視化と具体的な数値の例は分かりやすいですね。長井:で、かつですね、現状に対してプロジェクトが入る時に思うのが、それが「立て直し」なのか「改良」なのか、というところも大きいかなと思っています。なんとなく「改良すればいいじゃん」という考えは、今の現状に対する満足度が比較的高いけれど、もう少し良くしたい、という感じなんですよね。あるいは、少し起きている問題をちょっと良くしたい、というくらいだと、なかなか今あるやり方を変えてまで、というモチベーションにならないんです。長井:だから、意外と「今をどう捉えているか」というところが重要で、「立て直し」となると、今のままじゃどうにもならないから変えなきゃいけない、となります。そうすると、比較的新しいアイデアや考え方に対して前向きに取り組んでもらえるんです。でも、現状にそこそこ満足しているけれど、もう少し良くしたい、というレベルだと、やっぱり自分たちの今までのやり方を変えてまで、というモチベーションにならないんですよね。同じ「改善」でも、今をどのポジションで捉えているかで、全然変わってきます。伊藤:そうですね。最近だと、自動化機器やロボットを入れたい、という話になると、「あるべき姿」が一気に分かりづらくなりますよね。全然変わっちゃう世界だから、そのギャップが捉えづらい。小橋:そう、現状を良くするんじゃなくて、全然今と違う世界に変えちゃうわけですからね。ただ、そこはどこまでいっても、結局我々コンサルタントでもよく分からないこともあったりするので、ある種の覚悟が必要な部分もあります。伊藤:日本の文化として、改善に対するポジティブな印象が非常に強いじゃないですか。それが逆に、改革を妨げているような感覚があるなという印象はあります。ガラッと変わることに 対しての怖さが、日本人には強い気がしますね。小橋:そうなんです。その辺りの温度感を、一人でではなく、会社を巻き込んでやらないといけない。ケースにもよりますが、どのレベル感でやりたいか。別に改良で十分機能しているのであれば、何が何でも今のやり方を変える必要もないかもしれません。しかし、その問題意識の高さだったり、ずれだったりといったものをなくすのが、プロジェクトを進めていく中で重要になってきます。小橋:「これでいいじゃん」と思っている人と、「これじゃダメじゃん」と思っている人がプロジェクトを回していると、その下で働くスタッフは多分きついと思うんです。評価にも当然影響してくるでしょうから。だから、現状をどのように見ているか、というのはすごく重要で、そこから見た「課題」だったり「問題」だったり、「目指すべ き姿」だったりを、一つ一つ紐解いて、プロジェクトメンバー全員が意識を統一する必要があると思います。伊藤:そこを整理するのが、我々のようなコンサルタントの存在意義でもありますね。長井:以前、ソリューションの3ステップ(現状認識、課題抽出、課題解決)のような話もありましたが、ああいうフレームワークをまず覚えて、それを実践で使ってみるということが、読者の皆さんの中でもできると、今日お話ししたようなことがすっと腑に落ちてきて、実際に使えるようになるのではないかと思います。長井:必ずしも私たちのようなコンサルタントでなくてもいいと思うのですが、外部の人間と壁打ちしながら「あるべき姿」を想定していく、というのをコンスタントにやるのは、結構大事な気がしますね。小橋:大事、大事。特に物流って閉じた世界ですし、僕らも色々な会社に行くと、なかなか外の情報を収集しにくかったり、自分たちのやり方を大外的に出せないケースも多かったりするんです。そういう意味でも、壁打ちは必要だと感じますね。まとめ今回の対談では、物流における「あるべき姿」と「現状」のギャップを捉える重要性について、そのために「問題」と「課題」を区別して考えること、そして現状をどのように認識しているか(立て直しレベルか改良レベルか)によって改善へのモチベーションが大きく変わることなどが議論されました。特に、長井さんが言及された「可視化」の重要性は、抽象的な議論を具体的な行動につなげる上で不可欠なステップです。また、プロジェクトを成功させるためには、関係者全員が「あるべき姿」や問題意識について意識を統一することが極めて重要であると小橋さんは語られました。そして、このようなギャップを埋め、「あるべき姿」を描き、プロジェクトを推進していく上で、外部の知見を取り入れたり、壁打ちをしたりすることの有効性が強調されました。閉鎖的になりがちな物流業界だからこそ、外部との連携がブレークスルーの鍵となるのかもしれません。皆さんの会社では、「あるべき姿」は明確に描けているでしょうか? 現状を「問題」と捉えていますか? それとも、未来を見据えた「課題」として捉えていますか?この動画を参考に、ぜひ皆さんの物流現場の状況を改めて見つめ直し、「あるべき姿」に向けた一歩を踏み出すきっかけにしていただければ幸いです。今回の動画は、【物流コンサルの仕事】目指すべき姿と現状とのギャップ%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FNSd17QHmHmc%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E物流, ロジスティクス, コンサルタント, あるべき姿, 現状, ギャップ, 問題, 課題, 改善, 改革, 可視化, 現場改善, 倉庫管理, 物流効率化, プロジェクトマネジメント, 壁打ち, ロジカイギ